銀行借入、固定金利か変動金利かを選択する考え方について

銀行から資金を借り入れる時、固定金利にするか変動金利にするかを選択することができます。身近な例では住宅ローンでしょう。固定金利は変動金利より少し高いけど期間を通じて変わらないので安心だと思う人が多いかもしれません。

はたしてそうでしょうか。デフレで物価が下がり続ける状況では、年金額が変わらない方が安心です。しかし、逆にインフレが進行して物価がどんどん上がっている状況では年金額が変わらなければどんどん目減りしていきますので安心できません。デフレでは固定、インフレでは変動・・・という都合のいい条件は通りません。

似たような事が金利でも起こります。その辺りを少し詳しく説明しましょう。なお、本稿では銀行借入を住宅ローンに限定しません。家計も事業も含む広い範囲で議論します。

固定とは変動とは

変動金利も固定金利も借入期間中の利息を計算する際に適用する利率(普通は年率で表示)のことです。このうち、固定金利を適用する場合は、期間を通じて利率が変更されることはありません。最初に取り決めた利率が継続して適用されるのです。

これに対して、変動金利では、借入期間中に適用する利率が、たとえば3ヶ月ごとなど一定期間ごとに変更されます。借入開始から最初の3ヶ月は2%だったけど、次の3ヶ月は2.5%に変わったという具合です。

金利の決まり方

では、変動金利の場合、利率は何を根拠に変更されるのでしょう。刻々動く市場の金利を基に銀行が計算する基準金利に連動して変更されます。

一方の固定金利は、短期の円資金レートと長期の円資金レートを交換する市場の相場を参考に設定しています。固定金利も結局は市場金利に連動していると言えます。

どちらも市場の金利に連動しているなら、固定でも変動でも同じかというと、そんなことはありません。市場は参加者の思惑が働いて動いているからです。

選択基準は下記の2種類ある

固定か変動かを選択する基準は、この思惑に乗っかるか、それとも乗っからずにどっちへ転んでも問題の内容にしておくかによって2通りの方法に分かれます。本稿では、前者を投機的選択基準と呼び、後者をリスク回避的選択基準と呼びましょう。

投機的選択基準とは

投機的選択基準は金利の先行きの予想を立てる方法です。今後5年間、市場金利が継続して高くなると予想できるとき、今の金利で借りておいて、将来の高い金利による利息支払い負担を減らそうというものです。このときは高くなると予想する期間を通じて今の市場金利を固定して適用したいわけですから、固定金利で借り入れます。この方法は、負担を減らすというメリットがあります。しかし一方、予想がはずれて市場金利が安くなったとき、固定金利で借り入れている期間を通じて高い利息支払いを負担するデメリットもあります。

では、今後、金利が継続して安くなると予想できる場合はどうでしょうか。その場合は、今の高い水準で借り入れる期間をできるだけ短くする必要があります。何故なら、金利が下がる都度、その安くなった金利のメリットを取りたいからです。5年の期間で借り入れる必要があるとき、たとえば3ヶ月毎の変動金利で借り入れる方法がいいでしょう。この場合も、予想がはずれしまった場合のデメリットがあります。投機的選択基準は、思惑通りに市場金利が動いた場合は利益を得ることができますが、思惑が狂った場合は危険です。

リスク回避的選択基準とは

上のようなメリットに色気を出さないのがリスク回避的選択基準です。予想がはずれた場合のリスクを避ける手堅い方針でいきたい場合はこの判断基準を使ってください。そうすればリスクは回避できます。その代り、予想通りに市場金利が動いた場合の利益は期待できません。思惑や予想を立てず、風が右からふくなら身体を左に倒し、左からふくなら右へ倒して風をまともに受けない方法です。

リスク回避的選択で起こる事とは

ただ、借入れの場合、何が風で、何が身体なのでしょう。そこが難しいところですが、次のように考えてみましょう。風は収入、身体は支払利息と捉えるのです。収入が減る場合は支払利息も減らす。収入が増える場合は支払利息が増えてもじたばたしない。

家計も事業も収入から費用を差し引いた残りが利益です。収入と費用が変わらないなら利益も変わりません。また収入と費用が同じ方向に平行して変化する場合も利益は変わりません。手堅い家計や事業運営は利益を安定させることで成り立ちます。支払利息は費用の一部ですから、収入が変わらないなら支払利息も変わらない。仮に収入が変わるなら支払利息も同じ方向に平行して変わるというのが、安定した家計、或いは事業運営であるというわけです。会社員の場合は収入が給料です。給料が変わらないなら支払利息も変えない。つまり、借入れは固定金利で行うのが得です。

企業の場合の収入は売上高です。その場合、売上高が変わらないなら、固定金利を選択すべきです。しかし売上高が変わらないという設定は無理でしょう。そこで問題です。売上高が変わるとき、支払利息も同じ方向に平行して変化するのでしょうか。もし、売上高が減少したときに支払利息が逆に増加してしまうようでは困りますね。そこをよく考えてみましょう。

収入と支払利息・市場金利は平行して動くか

売上高(収入)と支払利息(市場金利)は平行して動くかという質問には、理論を使って解答を探す必要があります。売上高は下式で与えられます。

売上高=製品の販売価格×製品の販売個数

販売個数が同じなら、売上高は販売価格によって左右されます。物価やインフレ率の影響を受けるでしょう。また、経済の動きが活発になって世間の景気が良くなると沢山売れるようになるでしょう。だから、売上高は物価や景気の影響も受けるはずです。

では、支払利息、つまり市場金利はどうでしょうか。実は、市場金利も物価や景気と一定の関係があるのです。厳密には、理論経済学によってこのことを導き出すことができますが、ここでは直感的に捉えてみましょう。

たとえば、経済の動きが活発になって、多くの事業者が設備投資をしたり生産の為の資材調達を増やしたりするとモノへの需要が高まります。供給が間に合わないと少ないモノに人々が殺到して価格が高くなります。同時に、設備投資や資材調達の為に必要な資金を借り入れようとすると、少ない資金に人々が殺到して資金の価格が高くなります。資金の価格とはすなわち金利です。だから、経済が活発に動くと、金利も物価も同じように平行して上がると言えます。

平行して動くが、動かない事情もある

まとめると、経済が活発に動いたり物価が高くなったりすると売上高(収入)が増え、同時に市場金利も高くなる。結局、売上高(収入)と市場金利は同じ方向に平行して動くと言えそうです。

ただし、これは理論経済学の話。現実の世界ではいつもきれいに平行して動くとは限りません。いろんな事情があるからです。少ないモノに人々が殺到してもすぐに価格は高くならないし、経済が停滞しても、需要と供給の関係が価格に波及するまでに一定の期間が必要です。また競争が激しい業界では、自社のシェアを守るために、景気が良くてもなんとか価格を抑えるという戦略がとられることもあるでしょう。景気が良くなっても給料がすぐには増えないという悲しい事情もあります。

以上の事から、経済が活発に動いて物価や市場金利が上昇すると、それに応じて販売価格や販売量が増えやすい事情のある事業と、そうではない、つまり経済が活発に動いて物価や市場金利が上昇しても販売価格や販売量があまり増えない事情のある事業を分けて考えなければならない事が分かります。

本稿では、前者を経済感応度の高い事業、後者を経済感応度の低い事業と呼んで次に進めましょう。

事情を踏まえて、固定金利に向いている人と変動金利が向いている人を分ける

利益が安定している事が良いことであるとの前提では、・・・

➀ 経済感応度の高い事業では、市場金利の上下に合わせて収入が上下しやすいため、変動金利を選択すべきです。市場金利が低くなって支払利息が減っても収入がそれに合わせて減るから利益は変わらず安定し、逆に市場金利が高くなって支払利息が増えても、収入が増えるなら問題なく、この場合も利益が安定するからです。

② 経済感応度の低い事業では、市場金利の上下に合わせて収入が上下しにくいため、固定金利を選択すべきです。市場金利が低くなっても支払利息が変わらず、収入も変化しないなら利益も変わらず安定するからです。逆に変動金利を選択してしまうと、市場金利が高くなって支払利息が増えても収入が増えないので下手をすると赤字になってしまう場合があります。

これを整理すると下表のようになります。一言でいうと、経済感応度の高い事業を営んでいる人は変動金利、逆に経済感応度の低い事業を営んでいる人は固定金利がお勧め。

感応度 固定金利を選択すると 変動金利を選択すると
感応度が

高い事業

景気良(悪)く物価上昇(下落)すると

・市場金利上昇(下落)→支払利息変わらず

・価格上昇(下落)等で収入が増(減)

・・・利益が増(減)して不安定

景気良(悪)く物価上昇(下落)すると

・市場金利上昇(下落)→支払利息増(減)

・価格上昇(下落)等で収入が増(減)

・・・利益変わらず安定

感応度が

低い事業

景気良(悪)く物価上昇(下落)すると

・市場金利上昇(下落)→支払利息変わらず

・価格上昇(下落)等でも収入は変わらず

・・・利益変わらず安定

景気良(悪)く物価上昇(下落)すると

・市場金利上昇(下落)→支払利息増(減)

・価格上昇(下落)等でも収入は変わらず

・・・利益が増(減)して不安定

具体的にどんな人か、そしてあなたは?

経済感応度の低い人の代表は給料が決まっている会社員です。会社員以外、たとえば個人事業主の場合、八百屋さんや魚屋さんなどは物価の影響を受けやすい、つまり感応度が高いと言えるでしょう。ただし、これらは生活必需品なので経済活発の度合に対しては感応度が低いため、会社員ほど固定的ではありません。逆に貴金属や高級アクセサリーなどを売るお店の場合は、経済感応度が高いと言えるでしょう。これらの商売に従事する人は、変動金利を基本として、状況に応じて固定金利も検討する立場です。

同じ小売りでも、清涼飲料水など社会慣習上一定価格に固定されがちな消費財を売る商売では物価への官能度は低いと考えられます。これらが生活家電や日用品等の場合は固定金利を基本とすべきでしょう。ただし、高級家電など経済活発度合への感応度の高い分野もあるので注意が必要です。経済活発度合いと物価の両方に感応度が高いガソリンは、変動金利を選択すべきです。

以上は業界を縦に割って分類したケースですが、横に割った場合、一次産品や生産財など上流ほど物価に対する感応度は高く、最終個人消費者に近いほど低いと言えます。消費者の価格への感覚は敏感なので、この点に限定して選択するなら、前者は変動金利、後者は固定金利を基本とすべきだと考えます。

皆さんの事情はいかがでしょうか。もし、皆さんがチャンスをものにして利益を追求するより利益を安定させる方を重視するなら、収入が経済活発度合いや物価に対して同じ方向に動きやすい場合は変動金利、逆なら固定金利を選択してください。

著者情報

人物
氏名 金森 亨 (かなもり とおる)
職種 経営コンサルタント
専門分野 事業性評価
事業計画作成
経営体制構築
為替リスク管理
事業資金調達
専門分野 1954年北海道出身、1978年慶応大学卒、協和銀行(現りそな銀行)入行、
春日井支店長、市ヶ谷支店長、旭日香港財務有限公司社長、
国際業務室長歴任後2005年退職、
2019年コンサルティング事務所「かな経営研究所」開設、同代表
著書 「事業再生の現場プロセス」(共著2013/6中央経済社)
「為替リスク管理の教科書」(2015/2中央経済社)
「事業資金調達の教科書」(2017/9中央経済社)